読書感想文6「山月記」

著者:中島敦

 

「もちろん、かつての郷党の鬼才といわれた自分に、自尊心が無かったとは言わない。しかし、それは臆病な自尊心とでもいうべきものであった。己は詩によって名を成そうと思いながら、進んで師についたり、求めて詩友と交わって切磋琢磨に努めたりすることをしなかった。かといって、己は俗物の間に伍することも潔しとしなかった。ともに、わが臆病な自尊心と、尊大な自尊心のせいである。己が珠にあらざるを恐れるがゆえに、あえて刻苦して磨こうともせず、また、己の珠なるべきを半ば信ずるがゆえに、碌々として瓦に伍することもできなかった。己はしだいに世と離れ、人と遠ざかり、憤悶と「ザンイ(恥じて無念に思うこと)」とによってますます己の内なる臆病な自尊心を飼い太らせる結果となった。」

人間は誰でも猛獣使いであり、その猛獣に当たるのが、各人の性情だという。俺の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。」

(ほえー・・・著者は病弱な方で、33歳でお亡くなりになっています。これは32歳の時?)